加藤泰朗 著
天理教仙臺大教会の前会長である著者は、教内外の出版物に長年にわたって健筆を振い、多数の著書を残しています。日常の出来事や人間の営みを鋭い目で観察し、その中に信心の要諦(ようてい)を巧みに織り込む筆致は、多くのファンを魅了してきました。
本書は、天理教青年会の月刊誌『大望』に平成9(1997)年から13年まで、5年間にわたって連載された同名のエッセーを1冊にまとめたもの。いわば、著者の“信仰エッセー”の集大成です。
エッセーの話題は多岐にわたります。戦後5年間に及ぶシベリア抑留生活や、伴侶(はんりょ)との2度の別れを乗り越えてきた今日の心境、家裁調停委員や保護司としてかかわった、事情を抱えた人々や非行少年・少女たちとの交流、あるいは歴史や文学、社会情勢など。いずれも、読む者を理屈で納得させようとするのではなく、時には自らの未熟さをさらけ出しながら、“信心”というものを縦横無尽につづっています。
また「現場に立たないと書けない私の手法」(「あとがき」から)とあるように、著者が日本各地に赴き、その土地にまつわるエピソードを記した紀行文も出色です。ほかにも、年齢を問わず読んでみたくなるタイトルが目白押しです。
なお、産経新聞「産経抄」の名コラムニスト・石井英夫氏が推薦の言葉を寄せておられ、「収められた一章一章は、滋味ぶかく、しかも一瞬たりとも気がぬけない掌編小説」であると激賞しています。
四六判上製/304ページ