川村たかし 著
著者である川村たかしさんは、奈良県五條市生まれ。大学卒業後、五條市の小学校で教鞭をとるかたわら、吉野の童話作家、花岡大学氏らと共に「奈良児童文化」という同人雑誌を発行したのが1959年。以来、半世紀にわたって児童文学に携わってきました。
1968年、『山へ行く牛』で野間児童文芸賞を受賞したのを皮切りに、路傍の石文学賞、日本児童文学者協会賞、産経児童出版文化賞大賞、日本児童文芸家協会賞など数々の文学賞を受賞。1998年からは日本児童文芸家協会会長を務めています。
出版された作品は80冊を超えますが、なかでも、原稿用紙4千枚の大河小説『新十津川物語』は、明治22年に未曾有の水害に襲われた奈良県十津川郷の人たちが、新天地を求めて北海道へと渡っていくという物語ですが、NHKでドラマ化されたことから、舞台となった北海道新十津川町には「新十津川物語記念館」が建てられています。
奈良県や紀伊半島を舞台にした作品を多く書き続けてきた川村さんは、この本の中で次のように記しています。
「郷土を舞台にした作品を書きつづけることによって、児童文学は私にとっての『祈り』の作業ともなっていた。命の尊さを描き、記すという『祈り』である。大自然の中で、私たちは生かされているのだと、児童文学を通じて子どもたちに伝えねばならないと祈った。
大人の小説にはともすれば、絶望が描かれる。しかし子どものための文学には、希望が描かれるべきだ。なぜなら子どもは、未来を生きていくのだから……。私は、『児童文学こそは太陽に向かう』と語りつづけた」
この『風の声 土のうた』には、著者の“心の原風景”ともいえる、故郷の山野と、そこに生きる人々への思いがふんだんに綴られています。私たちが忘れかけている大切な何かを思い出させてくれる、珠玉のエッセー集です。